野史・野談類を中心に朝鮮時代の文献資料に描かれた圃隠像を概観してきた。引用資料を見てもわかるように、野史や随筆・詩話などの中でも伝記的性格の強い資料が多く、野談のような説話集にはあまり見られない。󰡔青邱野談󰡕には圃隠が登場する作品があるものの、それは異人としてのキャラクターが付与されているだけであり、圃隠の生涯とは何の関係も持たない。蓋し、圃隠のように極めて限定された性格づけが施された人物は、説話の世界で多彩な人物造型を持ちにくかったからだろう。 最後に󰡔華海師全󰡕について触れておきたい。これは高麗末の申賢の学問と言行をまとめた書で、門人の圃隠が元天錫に伝えたものを編纂して刊行されたものという。注目されるのは、その巻頭に掲げられた「東方道統図」である。朝鮮の儒学は檀君・箕子から始まり、薛聡・崔沖・安珦・禹倬らを経て、申賢・圃隠・李穡らへと伝えられたとする。文化の起源を檀君に求めるのは、洪萬宗が󰡔海東異蹟󰡕で朝鮮道教の起源として檀君を位置づけたように、民族主義的な発想に基づくものであり、󰡔華海師全󰡕においてもそれが踏襲されているのが興味深い。
一.はじめに
二.生誕
三.学問文才
四.人となり
五.殉節
六.子孫たち
七.圃隠批判
八.おわりに
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