16年たりない田中英光の文学人生の中で植民地朝鮮と中国戦地での体験を背景とした作品は、英光文学の全体像においてどんな位置づけされているか。田中英光の短い人生を文学の背景として並べてみると、幼少年時代、大学時代、朝鮮滞在前期、中国従軍期、朝鮮滞在後期、帰国後日本協力期、敗戦後共産党活動期、脱党後無頼派時代などと区分できる。その中で朝鮮ㆍ中国の背景となる期間とは、1935年4月からで1942年12月までである。朝鮮滞在前期、日中戦争の従軍期、朝鮮滞在後期と重なる時期で文学人生の半分にあたる約8年間に省たる。この朝鮮ㆍ中国の8年間の体験は、田中英光の16年間の文学人生に戦争期の作品と戦後の作品の背景となり様々なかたちで作品の中に残されている。 英光の朝鮮ㆍ中国の背景作品群は、敗戦後に書かれた無頼派作家としてのデカダンス作品群とは異なって、英光の人生体験がそのままうつされている英光文学世界の根幹か表出された作品でもあるし、英光の思想的変遷様相をもっとも確実にみせる核心的な作品でもある。こういう意味で、「オリムポス果実」で代表する青春小説群、戦後日本共産党地区活動を題材と「N機関区」で代表する共産党地区活動小説群、「野孤」で代表する無頼派作家としてデカダンス小説群、「桜田門外」で代表する歴史小説群、「わが西遊記」で代表する中国翻案小説群など、英光の様々な小説世界のなかで、朝鮮ㆍ中国背景の戦争期と戦後の作品群の意味と位置付けは、田中英光文学世界の出発点であるとしても過言ではないであろう。
〈要旨〉
1. 田中英光文学の性格
2. 田中英光文学の作品分類
3. 左翼運動失敗の表れと初期作品
4. 意識の屈折過程と朝鮮ㆍ中国の背景作品
5. むすび
【参考文献】
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