本稿では、日本の文学にそのまま取り入れられた中国俗文学の形式について考察した。特に、回目という小説の始まりの部分と章回の終りの部分に注目した。中国俗文学の大きな特徴は章回小説である。章回というのは、各小説の目次が章や回になっていることである。この章回小説は、日本には中世までは中国俗文学のようなものはなかった。中国では巻のものもあるが、時代の流れにより回や章になっているものが増えていく。さらに回目(目次)のように、二行からなる目次が流行する。こうい うスタイルが日本にも伝えられ、読本、通俗和訳本、日本人作白話文、漢文戯作の一部、明治期の文学にも影響を及ぼしている。回そのものは、言文一致の創始期の作品にも現われているが、二行の回目は用いられなくなる。さらに、章回の話の導入部に話説ㆍ却説ㆍ閑話休題のような話題転換語も多数用いられ、中国俗文学の体裁を帯びている作品が多く見られる。中国俗文学における章回の終りの部分には結びの常套語が用いられる。これは、一般的には畢竟を伴いつつ且聴下回分解をもって結ぶという形式である。且つ下回の分解を聴けの意味で、また次の話が続くことを語り手が示す方法である。日本の文学にもそ のまま受入れられて、近世の読本、極一部の通俗和訳本、日本人作白話文、明治期の漢文小説の一部にも用いられているが、特に、明治期の翻訳ㆍ政治ㆍ講談などの文学作品に多数用いられている。明治期の場合は20年代以前の作品に集中していて、且聴下回分解のような原形を保っているものもあれば、看官次回次巻次編のような指標を用いる場合も多い。このように、中国俗文学の形式をそのまま日本文学に導入している作品が多く、中国俗文学が近世や近代の日本文学に影響を及ぼしていることが分かった。しかし、日本における章回小説の回目や結びの常套語は、言文一致の創始期である明治20年代以後は特殊な資料以外には用いられなくなり、一時的な流行であったことがわかる。
1. はじめに
2. 「章回」の回目と関連語など
3. 物語の「結びの常套語」
4. おわりに
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