本稿は、キリシタン文字社会の特徴を探る意味で、キリシタンの写本 『吉利支丹心得書』の字音語の仮名遣いを考察した。その結果は、以下の通りである。 撥音韻尾をみると、-ŋは「う」表記、-m、-nは「ん」表記で安定してい る。ハ行転呼音の間違った回帰として-ŋ韻尾の「ふ」表記が一部見られる。入声韻尾は、-kは「く」「き」、-pは「う」、-tは「つ」の表記である。母音韻尾「-i」「-u」は、それぞれ「い」「う」の表記が一般的で、一部ハ行転呼音の間違った回帰として「ひ」「ふ」の表記が見られる。 カ行ㆍガ行合拗音はア列合拗音の「くわ」「ぐわ」表記のみが見られる。 オ段拗長音はイ段の仮名+ヤウ表記とエ段の仮名+ウ表記で、ヤ行のみ「よ う」または「やう」表記である。 ウ段拗長音はイ段の仮名+ウ表記の形である。アㆍヤㆍワ行音に始まる字音語は、声母に関係なく、『吉利支丹心得書』 の和語の仮名遣いのように、イ音「い」、エ音「ゑ」、オ音「お」表記である。 これらの表記を総合して考えると、『吉利支丹心得書』の字音語の仮名遣 いは、おもに鎌倉時代中期以降の和文資料の仮名表記の流れに従って現れる表記と、字音語の「和化」による表記が、共存していたと言えるだろう。
일어요약
Ⅰ. はじめに
Ⅱ. 韻尾の表記
Ⅲ. カ行ㆍガ合拗音の表記
Ⅳ. 拗長音の表記
Ⅴ. アㆍヤㆍワ行音にはじまる字音語の表記
Ⅵ. おわりに
参考文献
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